加賀友禅の巨匠・由水十久とは?歴史や着物作品の特徴について解説

由水十久

加賀友禅の巨匠の1人である由水十久は、独自の世界観で国内外から高い評価を受けています。

そこで今回は、由水十久の歴史や作風・特徴的な落款などについて、解説したいと思います。

目次

由水十久とはどのような作家なのか

由水十久は、1913年に石川県金沢市で生まれました。1927年に京都に出て、紺谷静蕉のもとで10年以上友禅染めの修行を行い、1938年に独立します。

1947年には、創作活動の場を故郷の金沢に移します。金沢に戻った後も精力的に活動を続けており、1966年ごろには、東京・大阪・金沢・仙台など、日本各地で個展を開催できるほどの人気を得ていました。1975年には「加賀友禅由水十久作品集」を出版しています。

精力的な活動や高い技術が評価され、1977年には伝統工芸士、1978年には石川県の指定無形文化財加賀友禅技術保持者に立て続けに認定されました。1978年には染絵集「うなゐ」を出版していますが、「うなゐ」とは十久が好んで作品のモチーフに用いた童子(小さい子供)を意味しています。

その後も、アメリカ・イギリス・ドイツなどで個展を開き、日本だけでなく世界中に活動の場を広げます。十久の作品が海外から高い評価を得ていたことは、1984年版の「ユニセフ・グリーティングカード」のデザインに、上述した「うなゐ」から2点の作品が選ばれたことからも、うかがい知れるでしょう。

1988年に74歳でその生涯に幕を閉じますが、十久がこの世を去ったわずか5日後にも、「醍8回伝統文化ポーラ大賞」を受賞しています。まさに昭和の加賀友禅を代表する作家の一人と言えるでしょう。

2代目由水十久について

上述したように由水十久は1988年に逝去していますが、十久の長男(煌人)と次男(充)が十久の精神を引き継ぎ、加賀友禅作家として活動しています。特に次男の充は、由水十久の名前を受け継ぎ「二代由水十久」として活動することで、十久の名を守り続けています。

二代由水十久は、多摩美術大学で日本画を専攻し、加山又造と上野泰郎の両名に指導を受けました。大学卒業後に帰郷し、1987年には加賀染振興協会に落款を登録され、加賀友禅作家としての認定を受けます。

父である初代由水十久が亡くなった翌年の1989年、二代由水十久を襲名しました。1996年には父と同じく伝統工芸士に認定されます。また、同年と1999年の2回、伝統加賀友禅展において金賞を受賞しています。

初代由水十久は海外でも積極的に個展を開いていましたが、二代由水十久も2017年に「二代由水十久染色展」を、ニューヨークで開催しました。由水煌人と二代由水十久の兄弟は「平成の十久」として、今もなお制作活動を続けています。

由水十久の着物の特徴

由水十久の着物の特徴

由水十久は、加賀友禅の巨匠として名前が挙がる着物作家の一人です。ただ、草花をモチーフにしたデザインが多い加賀友禅にあって、十久は模様としてもっとも扱いにくいとされる人物画を好み、特に童(わらべ)を題材にして独自の世界観を作り上げています。

描かれる童子は、唐子(からこ)と呼ばれる中国風の髪型をした子供であることが多いです。
唐子は日本では縁起物として扱われており、十久は唐子を通じて喜びや楽しさ・生命に対する賛歌などを表現しています。

髪の毛の一本一本から服装の細かい部分まで友禅で仕上げるのは並大抵の技術ではなく、まさに十久ならではの職人芸と言えます。唐子の表情も非常に豊かで、今にも動き出しそうなリアリティがあり、唐子を見るだけで十久の作品と断言できるほどです。

製作過程における由水十久のこだわり

加賀友禅では人物画を模様のモチーフにすることはあまりなく、そういった点では人物画を中心に友禅の制作を行うというのは、十久のこだわりだったと言えるかもしれません。

また、十久は「あくまでも着る人が主役」というこだわりも持っていました。そのため、着物を着たときに360度どこから見ても美しく見えるように注意しながら、制作を行っていたようです。

着物を弟子や人形に着せたうえで童子の模様を描いたり、弟子に何百回もポーズを取らせて下絵を作成していたというエピソードからも、着る人のことを第一に考えていた十久の精神が汲みとれるでしょう。

加賀友禅の特徴とは?

現在の加賀友禅のもとは、京都の扇絵師だった宮崎友禅斎が作ったと考えられています。友禅斎は晩年、生まれ故郷の金沢に帰りましたが、その際に友禅斎が持ち帰った技法と加賀のお国染めであった「梅染」が合わさったものが、現在の加賀友禅につながっています。

加賀友禅の特徴としては、以下の3つが挙げられるでしょう。

  • 加賀五彩
  • 外ぼかし(先ぼかし)
  • 虫食い

加賀五彩は「臙脂(えんじ)・藍・黄土・草・古代紫」の5色で、多くの加賀友禅はこの5色を組み合わせて自然の美しさを華やかに表現しています。草花の自然な色合いを表現するため、京友禅よりも沈んだ色彩が特徴です。

外ぼかしとは、外から内に向かって色彩のグラデーションを薄くしてゆく手法で、模様をより立体的に見せる効果があります。同じ友禅でも京友禅の場合は、内から外に向かって色彩のグラデーションが薄くなるのが特徴です。

虫食いは、虫が食べてしまった葉や病気になって枯れてしまった葉をあえてデザインに盛り込む手法です。柄に現実感を持たせ、デザインのアクセントとなる効果があります。

由水十久の落款

由水十久の落款

落款とは、「特定の作者(または工房)が仕立てたことの証」であり、落款を見ることで誰が仕立てた作品かが分かります。特に加賀友禅は、加賀染振興協会に落款を登録されなければ加賀友禅作家としての認定を受けられないので、落款は非常に重要です。

初代由水十久の落款は、縦長の長方形の中に縦長の「十」の字が配置され、その下部に「久」が少し重なる形で置かれているようなデザインです。由水十久の落款について知らなければ、初見でこれを「十久」と読むのは難しいかもしれません。

二代由水十久の落款は、縦長の六角形の中に、同じような形で「十」と「久」が配置されたデザインです。一見するとよく似ていますが、長方形と六角形という違いがあるので、初代由水十久と二代由水十久の落款の見分けは簡単につくでしょう。

まとめ

由水十久は世界的にも評価の高い加賀友禅作家で、唐子をモチーフとしたデザインが特徴です。世界的にも高い評価を受けており、没後は息子の充氏が二代由水十久として、「十久」の名と初代由水十久の志を受け継いで活動しています。

すでに他界しており新作が望めないことやファンやコレクターが多いことから、十久の作品は高値で取引されることが多いです。目にする機会自体あまり多くないと思いますので、もし十久の作品と出会えた場合は、一期一会だと思ってその美しさや繊細さをしっかり感じてほしいと思います。

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