久保田一竹とは?特徴や歴史、辻が花について解説

久保田一竹_とは

着物の巨匠、久保田一竹は国内外で高い評価を受けているものの、着物に興味がある人以外にはあまり知られていない存在とも言えます。

そこで今回は、久保田一竹の歴史や代表的な作品である「辻が花」などについて、解説したいと思います。

目次

久保田一竹の歴史

久保田一竹は、東京神田の骨董品屋の息子として生まれ、昭和から平成にかけて活躍をした染色工芸家です。友禅師の小林清に入門し、10代の頃は大橋月皎や北川春耕のもとで、人物画・日本画を学びました。

20歳のとき、東京国立博物館で室町時代の「辻が花染め」の小裂に出会い魅了されたことが、久保田一竹の転機となります。その当時すでに失われた染色技法となってしまっていた辻が花を模倣・再現するだけでなく、現代でも通用する独自の技法として復刻することを目指し、その研究に全身全霊をそそぎました。

27歳で太平洋戦争に召集され出兵し、敗戦後は31歳で復員するまでシベリアに抑留されていました。抑留中は満足に研究も進められませんでしたが、防寒具の毛で筆を作って絵を書くなどの修練は怠らなかったそうです。

1957年、40歳にしてようやく本格的に辻が花の研究に取り掛かれるようになりましたが、一竹が45歳を迎えた1962年、技術的な観点から伝統的な辻が花を完全に復刻するのは無理だと判断するに至りました。それ以降一竹は、「一竹辻が花」として自己流の辻が花を発展させることになります。

1977年には、自身初の個展である「一竹辻が花展」を開催します。一竹の作品は国内だけでなく海外からも高い評価を受け、1990年にはフランス芸術文化勲章シェヴァリエ、1993年には文化庁長官賞を受賞しました。

その後も自分の名を冠する「久保田一竹美術館」を建設したり、オタワ・ベルリン・ウィーンなど海外各地で個展を開いたりと精力的に活動を続け、2003年に85歳でその生涯に幕を閉じました。

久保田一竹の特徴

久保田一竹_特徴

一竹辻が花の大きな特徴は、ダイナミックな構図と高度な染色技術による多彩な配色です。着物のひだによる文様の盛り上がった部分に細かな刺しゅうを施すことで、着物全体の立体感が増してグラデーションがより映えます。

絞りの豊かさに目がいきがちですが、着物にあしらわれた花は非常に繊細なタッチで描きこまれているので、遠くから見たときと近くから見たときでその表情を変えるのも、一竹辻が花の魅力の1つと言えます。

また、着物の染料としては植物染料を利用するのが一般的でしたが、一竹辻が花では化学染料を利用しています。化学染料は色を混ぜると分離してしまうため取り扱いが非常に難しいのですが、一竹は染料をぬるま湯でうまく調合する方法を見い出したのです。

化学染料を利用できるようになったことで、色をコントロールしやすくなり、縫い絞った部分への彩色も容易になったため、イメージしていた通りの染色を行えるようになったのです。

一竹辻が花の絞りの作品には、コバルトブルーの小さな星が必ず入れられており、この星は「一竹星」と呼ばれています。一竹がシベリアに抑留されている際に目に焼き付け、生きる希望を与えてくれたオーロラと星の輝きを再現したものであり、一竹辻が花の象徴とも言えます。

久保田一竹の落款

落款とは、「作者が仕立てた証」であり、言ってみればサインのようなものです。落款を見ることで作者や製作工房が特定できますし、作者によってはどの年代のときに手がけた作品かが分かることもあります。

もちろん久保田一竹にも落款があり、そのデザインは漢数字の「一」と象形文字の「竹」を組み合わせたようなものになっています。パッと見で「一竹」と読めるため、久保田一竹の作品であることが非常に分かりやすいと言えるでしょう。

なお、一竹辻が花の生みの親である久保田一竹は初代の久保田一竹であり、現在はその息子である悟嗣氏が、二代目の久保田一竹を名乗っています。そして久保田一竹の落款は、初代と二代目で微妙に異なるのです。

初代久保田一竹の落款は、「一」と「竹」が落款のおおよそ中心に位置しているのに対して 、二代目久保田一竹の落款では「一」の位置が左に少し寄っています。落款の特徴や違いをきちんと把握しておくことで、作者や作品を見分けることが可能です。

久保田一竹の美術館

先ほどお伝えした通り、久保田一竹は生前、自身の名前を冠した「久保田一竹美術館」を建設しています。久保田一竹美術館があるのは、富士五湖の1つである河口湖の湖畔から10分ほど歩いたところであり、富士山と河口湖を臨む絶好のロケーションです。

美術館の正門には、インドの古城で使われていた木彫りの扉を再利用するなど、全体的に異国情緒が漂う雰囲気となっていますが、広大な庭は純和風庭園となっており、非常にオリエンタルな印象も受けます。

美術館は新館と本館からなっており、新館のデザインはサグラダ・ファミリアで有名なアントニ・ガウディのファンであった一竹が自ら考案し、ガウディがバルセロナに造ったグエル公園を彷彿とさせるデザインとなっています。新館には受付やミュージアムショップ・特設ギャラリーなどがあり、一竹が収集していた蜻蛉玉のコレクションなどを見ることが可能です。

新館を通り抜けた先にあるピラミッド型の建物が本館で、中央の舞台に3枚、四方の壁を取り囲むようにして20枚以上の一竹辻が花の着物が飾られています。ピラミッドの頂上部分はガラス張りになっており、差し込む太陽の光に照らされて着物の彩色の豊かさがより一層際立ちます。

一竹が「一竹辻が花」の集大成として手がけ、残念ながら未完のまま終わってしまった連作「光響(こうきょう)」も、新館にて鑑賞することができます。

久保田一竹の作品集

久保田一竹の作品としては、「一竹辻が花」の名で知られる辻が花がもっとも有名であり、連作の「光響」や「富士山」といったアート作品があります。しかし、もちろんアート作品だけでなく実用的な着物も多数手がけており、「花戯(はなのたわむれ)」や「瑞華(みずは)」などが有名です。

以下では、これらの作品について説明します。

久保田一竹:辻が花

辻が花の特徴は何と言っても、装飾の細かさや彩色の鮮やかさです。一竹辻が花は、縫う・絞る・染める・蒸す・水洗いする・絞りを解くという作業工程を何十回と繰り返して完成されるため、装飾や彩色の細やかさは他の着物の比ではありません。

構図も綿密に計算されており、まるで着物というキャンパスの上に1つの絵画が描かれたようです。少し名の通った作家の作品ですら、一竹辻が花を前にしてしまえばその気品と格調高さにかすんで見えるほどの存在感が、一竹辻が花にはあります。

久保田一竹:花戯

花戯は、ベージュのようなグリーンのような穏やかな色合いを基調とし、衽には細かな花の刺しゅうがいくつも施されています。上品なたたずまいの中に優雅さも感じられる、非常に風格のある作品です。

久保田一竹:瑞華

瑞華は、淡い青色をベースとしており、落ち着いた印象を与えます。全体的な構図・色合い・柄の調和は「素晴らしい」という言葉程度では言い表せないものであり、久保田一竹の類いまれなるセンス・美的感覚をうかがい知ることができます。

まとめ

久保田一竹_まとめ

久保田一竹は、室町時代の染色技法である「辻が花染め」に魅了され、その復刻を目指しましたが、その野望はついぞ実現することはありませんでした。しかし一竹は、「一竹辻が花」と呼ばれる独自の辻が花を発展させ、一竹が逝去してもなお彼の作品は、世界中で高い評価を得ています。

連作の「光響」や、一竹が畏怖と憧憬を抱き続けてきた富士山をモチーフにした「富士山」などが代表作であり、これらの作品は山梨県にある久保田一竹美術館で鑑賞することができます。一竹の作品や世界観に興味をお持ちであれば、ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

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